矢田との繋がり、私編【吉田涼香】

はじめに

矢田集落(新潟県柏崎市)の空き家に大学生3人が1ヶ月弱滞在し、地域の冊子を作るというプロジェクト。

私が今回のインターンに参加したのには「食と農について知りたい」「冊子を作ってみたい」「美味しいものが食べたい」「田舎暮らしをしてみたい」など、たくさんの理由がありました。

大学3年生の夏休みです。

同級生が企業や役所のインターンをしている間に、のんきに田舎暮らしを楽しんでいていいのか、という迷いもありました。

でも、直感的に「面白そう!」と思ったことに飛び込んでみて良かったと心から思えたし、色んな面で自分の成長に繋がる体験になりました。

あまり聞きなれない、「暮らしのインターン」の始まりです。

矢田での生活

予定らしい予定は、最初の歓迎会と最後の報告会、週1回のミーティング以外ほとんど決まっておらず、前もってスケジュールを決めておきたい私には少し不安なスタート。

でも、実際に矢田での生活が始まると、毎日必ず誰かが「うちにも遊びにおいで」「海に連れて行ってあげる」「バーベキューしよう!」と声をかけてくれて、ほとんど白紙だったカレンダーがあっという間に埋まっていくのを見ているうちに、いつの間にかそんな心配は消えていました。

生活の上で欠かせない食材にも全く困りませんでした。

朝起きると自転車のカゴにレタスが入っていたり、朝採り野菜を畑からそのまま持って来てくれたり、歩いていると「野菜持ってく?」と声をかけてくれたり。

作った人から手渡された安心安全な野菜ばかりが並ぶ食卓を3人で囲むという、いつもの一人暮らしでは考えられないような贅沢な食生活に大満足でした。

普段生活している東京のアパートでは、壁一枚挟んだ隣の部屋の人の名前も知らず、周りの人を気にかけることも、気にかけてもらえることもありません。

あんなに人で溢れている街の中で、会話らしい会話を一度もしない日だってあります。

でも矢田では、一軒一軒は少し離れていても全く知らない人はほとんどいないし、歩いているだけで話し相手はたくさんいるし、何かあったら助けてくれる人がいる安心感があります。

稲刈り前の田んぼと田舎らしい広い空を眺めながら、「田舎っていいな」と純粋に感じられる日々でした。

 

冊子作り

プロジェクトのゴールの1つである地域の冊子。

まず何よりも、「『ソトモノ』の私たち3人にしか作れない冊子にすること」を意識しました。

調べたらわかるような集落の歴史やデータ的なことではなく、集落の農業や生活を知ったり、集落の方々と関わったりする中で、私たちがどう感じたかをまとめることにしたのです。

コーディネーターの方を含め、矢田で私たちと関わった方々全員が、「あなたたち3人が感じたことをまとめればいい」と言ってくれていました。

そんな自由な冊子作りであったからこそ、「どんな内容」を「誰に届けるか」、という点についてはとても悩んだところです。

 

今回のインターンに参加するにあたって、3人とも大学やサークルで農業や食について触れていたこともあり、元々は、矢田集落の昔の農業や最先端の現代農業を中心に取材し、「東京や都会に住む人に集落について知ってもらう冊子を作る」というイメージを持っていました。

しかし、集落の方々と関わる中で、「集落の方々が読んで楽しめるものにしたい」と感じるようになります。

何度も話し合いを重ね、最終的には、私たちの中で一番印象に残った「人と人・農業・食の関係性」や「生き方の多様性」という部分にフォーカスを当てた冊子を作ることに決定。

 

実際に冊子作りを始めると、想像以上に面白くて、アイディアもたくさん出てきて楽しみながら作業を進められる時間も多かったです。

十人十色でいいということ

仲良くして頂いていたご夫婦が「同じ集落でも十人十色。昔の人の考えた言葉は正しい。」というお話をして下さったことがあります。

まさにそれが、矢田集落に潜り込んでみて一番私の印象に残ったことです。

というのも、今までの私は「集落の暮らし」と一括りにして考えていたのです。

でも、実際に色んなお宅にお邪魔してみると、同じ年代の人でも考え方は人それぞれだし、職業や生活の仕方も本当に多様だということに気付きました。

言葉を選ばずに言うと、「田舎でもこんなに個性的で素敵な生活ができるんだ!」と驚くことも多かったです。

それぞれの生き方を否定せず、住民同士で程よく距離を取ることも許される矢田集落の様子を見て、「他を受け入れない」とか「みんな同じような生活」という集落のイメージが大きく変わりました。

十人十色でいいということは、つまり関わりを持った地方や地元との繋がり方も人それぞれで良いのです。

 

少子高齢化を心配している集落だから、「移住して欲しい」って思われるんじゃないかなぁ、と思っていました。

でも、矢田の人たちが私たちに求めていたのは、純粋に1ヶ月のインターンを楽しむこと、そして年に数回でも遊びに来てくれること、たったそれだけ。

それだけで嬉しいと言ってくれています。

地元に戻れなくても、地方に移住できなくてもその地域の力になることができるのです。

そしてその地域と繋がっているという感覚が、忙しい日々の中で私の心の支えにもなります。

 

年に1回のお祭りに参加したり、田植えや収穫の忙しい時期に手伝いに行ったり、

都会で地元の農産物やお酒を買ったり、地方の人が都会に遊びに来たい時に案内してあげたり…

これなら私もできそう、と思う矢田との関わり方のヒントをたくさん見つけることができました。

その場所に行くこと、色んな人と関わること

自分の当たり前が人の当たり前と違うと、物事を色んな面から見られるようになり、いい刺激になりますが、矢田ではそんな出会いがたくさんありました。

例えば雨。

雨が降ると動きづらいので嫌だと思っていた私に、立派な畑を持っているおばあちゃんたちが「やっと雨が降ってくれて嬉しいね」と言ったのです。

今までは畑と深く関わっている人が周りにいなかったので、「雨が降らないと困る人もいるんだよ」と言われても、いまいちピンときていませんでした。

しかし、一度実際に野菜を育てた人と関わり、自分の目でその農作物のストーリーを見てみると、雨がそれほど嫌なものではなくなっていたのです。

まさに百聞は一見に如かず。

実際にその土地に行って自分の目で見ることの大切さや、人と話す楽しさを知り、「なんでもやってみたい」「何処へでも行ってみたい」「誰とでも話してみたい」という感情が生まれました。

フットワークが重く、「人と話すのが苦手」と言っていた1ヶ月前の自分と比べると、とても大きな変化でした。

なりたい自分に気付くこと・近付くこと

今振り返ってみると、今回のインターンで心の一番深いところにあった目的は「自分の自信に繋がる何かがしたい」ということだったと思います。

活動中に新聞やテレビの取材が入ったり、70名以上の集落の方々に加えて、柏崎市の市長さんや他の地域の方々が報告会に来てくださったりと、私たちの活動を多くの人が注目してくださいました。

もっと小規模なプロジェクトを想像していた私のイメージとの差に、緊張も戸惑いもありましたが、興味を持ってもらえることは単純にありがたかったし、たくさんの人に自分の活動を認めてもらえたことは、結果的に大きな自信に繋がりました。

また、自分の将来について真剣に考えるきっかけにもなりました。

今までは、「食に関わる仕事でお給料もそれなりにもらえたらいいな〜」くらいの気持ちで、食品業界の大手企業を目指して就活を進めようとしていたのですが、

“一般的な就活”とか、周りの目とか、何大学行ったとか、そんなことは関係なく、

自分を本当に充実させるために、悩んで、考えて、もがいて。

自分はそんな生き方がしたかったのだと気付かされたのです。

 

今回の経験をもとに、流れの中で何となく決めた目標とは違う、本当に目指したいものを見つけることができました。

 

 

終わりに

矢田からそれぞれの場所へ帰る朝、あるおばあちゃんが、私たち3人の植えた白菜の種が芽を出したと、わざわざ家から育苗用の連結トレーを持ってきてくれました。

野菜の成長の早さに驚き、私たちが矢田で蒔いた種が芽を出した喜びを感じました。

矢田での1ヶ月はあっという間で、本当はもっと矢田に居たかったです。

 

でも、私たちはいつでも矢田に戻って来ることができるし、待ってくれている人がいます。

親戚に会いに行ったり、移住したりする訳ではない、私なりの田舎との関わり方。

矢田はそんなあり方を快く受け入れてくれる本当に暖かい場所です。

 

実は、矢田から帰って来て数日後、9月末の新幹線のチケットを予約しました。

地区の運動会に参加させてもらいます。

矢田の皆さん、そしてここで初めて出会ったとは思えないほど楽しい毎日を過ごさせてくれた奈菜ちゃん友唯ちゃん、これからもよろしくお願いします。