農村で暮らす人は、賢い-新発田市地域おこし協力隊-小柳繁さん

『今思えば、あの人も地域おこし協力隊みたいだな』そんな風に、上三光集落の方々に語られていたのは、上三光清流の会の代表を務める、小柳繁さん。

集落内外の人を巻き込んで、農業体験イベントなどを開く、この集落の仕掛け人です。高校卒業後に上三光集落を離れ、再び戻ってきた、Uターン者でもあります。

 

「僕がずっと上三光集落から出ていなかったら、役に立たなかったと思う。外に行っていたから、たまたま役に立った」そのように語る小柳さんに、現在の活動に至る経緯と、外からの視点を上三光集落に入れることに対する考えを中心にお話を伺いました。0u8a5961

 

農村で暮らす人は、賢い


東京で会社勤めや、日雇いでの仕事をしながら、日本やアジアの国々を旅し、自由に過ごした20代。アジアで感じたのは、経済成長とはまた別の日々の営みの中にある豊かさだったそうです。

ちょうど30歳の頃、子どもができたことをきっかけに、東京から上三光集落へと戻ってきた小柳さんは、集落の人たちからは「うるさい奴が帰ってきたな」と思われていただろうと笑います。

 

「僕は都会でくたびれてアジアに行って帰ってきた。その影響で、経済よりも別の豊かさを感じていた。でも、帰って来てすぐに、経済とは別の豊かさを訴えたところで、都落ちしてきたのに偉そうなこと語っていると思われるだけ」

 

東京にいる頃から、食や農への興味は強く、上三光州集落のような農村で暮らす人々の生き方に賢さを感じていたと仰る、小柳さん。

 

「僕は農家の息子だからか、東京にいた時から食や農に興味があった。都市の無機質さが何か違うんだよ。農家の人と喋ってみると良い人がいっぱいいるでしょ。なぜかというと自然と向き合っているから、考えている。マニュアルに従って生きていない。マニュアルをもらうと考えなくなるよね。考えるっていうことが大事。考えは現場にあるのだから、農村は現場の連続。農村で暮らす人は、賢いですよ」

 

地域の中で何かしようっていう人は、身の回りにはいなかった


農村で暮らす人たちへの尊敬の念は抱きつつも、東京から帰ってきた当初は集落に馴染めなかったそうです。今でこそ、周りの方から『顔が広いよね』と言われるそうですが、当時は高校を出てすぐに上三光集落を出たが為に、集落に暮らす人たちのこともよく知らず、一緒に何かを企てる人もいなかったのだとか。0u8a5999

 

「地域の中で何かしようっていう人は、身の回りにはいなかった。もともと『地域』っていうのは何かをしようっていう集まりじゃなくて、相互扶助で築いた集まり。そこに新しく入ってきて、今までとは違うことをやるって言ったら邪魔だと思われるのは当たり前。そんな生易しいもんじゃない。だから、地域で何かやろうとするなら、地域が期待するか、やる人間に力があるか。まとめる力がないと何言ってもだめだし、地域が求めなければ浮くし」

 

農村というアプリケーションをどうやって使うか


そのような現実を感じながらも、上三光集落のような農村のこれからを考えると、外から人を入れないとまずいという危機感を抱いていたそうです。イベントを通して外から人を入れることでこの集落に関わる人たちを増やす活動を続けてこられました。

その活動が広がりを見せたのは、小柳さんを代表に『上三光清流の会』が発足したことがきっかけのようです。農業体験を中心に、新潟の名物である笹団子づくりや田んぼを守る案山子づくりなどのイベントが開かれると、集落内外から参加者が集まるようになりました。0u8a5986

 

「ずっと前から農業体験をしたかったんさ。上三光清流の会は、突破口として期待されたんじゃないかな。僕は前例があるのはあまりしたくない。前例がないと怖いけど、逆を言えば、やり方が自由なんだよ。前例があると決まっているからちょっと外れるとああじゃないこうじゃないってなる。農業体験も、この集落では今まで前例がなかったから、その道を通った人はいなかったけれど、ただ人が通っていないだけで、誰かが道さえつくってあげればできるようになる」

 

そう小柳さんが言う通り、上三光清流の会がつくった農業体験等のイベントを通した『道』は仲間を増やしながら着実に進んでいます。
毎年5月に行われる田植え体験には、100名以上が参加し、和気あいあいと集落の人たちと話をしながら思い思いに上三光集落の自然を楽しんで帰ります。集落の人との会話し、集落内をめぐることで、農村での暮らしを疑似体験する時間にもなっているのです。img_1037

 

「農村というアプリケーションをどうやって使うかが農村における地域づくり。人の輪も河川も自然も詰まっている。詰まっているものの装置としてどうやって気分よく運営できるかを考える。お互い補い合って、上三光集落をどのように一つのテーマパークにするか考えないと、新興住宅に住むのと同じになっちゃう」

 

活動を続けていく中で、少しずつ仲間も増え、今では農業体験等のイベントも、集落内の多くの方が運営に関わってらっしゃいます。

 

 

今でも変わらずに続いていることの中に本質がある


いわゆる『田舎』での暮らしでは、ご近所付き合いや集落内のグループでの活動が盛んに行われています。住民たちが何かしらの『役』を任命されることもしばしば。上三光集落にも、『組』や『講』と呼ばれる住民組織があり、祭りや行事での役割分担が行われているそうです。0u8a6003

 

「一般の社会は、学生のとき学級委員長をやらず、会社でも平社員となると、何かを仕切ることなく一生が終わってしまう。でも、組や講では必ず役目が来る。3人1チームだと1人が仕切ってあと2人が補佐。逃げたくても逃げられない。そうなると自然とみんなが組織に加わって長を経験する。ということは、祭りでも行事でも、何かあったときの安全保障になる。街では、誰か一人が町内会長をしたとしても、その人がいないような非常事態が起きた場合に他に仕切ることのできる人がいなくて、組織が機能しない。農村は何があっても機能するように仕組まれている」

 

それを面倒だと感じる前に、なぜ何十年何百年もそれらの組織が存在し続けているのか本質を考えてみてほしいと小柳さんは語ります。

 

「今でも変わらずに続いていることの中に本質がある。その本質を見ず、面倒臭いと言う前に、自分が参加する意味を考えなさいっていうことなんだと思う。それに気が付かないで、『忙しいのにまた呼ばれた』と言ってしまっては、身も蓋もない。参加してみて役割を一巡すると意味が分かってくるのかな。ただ集落の人の中には、僕みたいな言い回しをしないで、『昔からのことだ』って言う人もいるかもしれない。そう言われると、『ええ!』って思うかもしれない。ずーっと住んでいる人からすると、当たり前すぎて説明がないんだよね。でも、その中には今まで農村で培ってきた文化がある」0u8a5984

 

慣れ親しんでいない人からすると、面倒に感じるかもしれないことにも、続いている理由があるのです。そして、それを手取り足取り教えてもらえるかというと、そうではないかもしれません。あまりにも当たり前のことで、暮らしている人たちでさえその価値に気づいていないこともあるのかもしれません。

だからこそまずは、目で見て、耳で聞いて、体験して、考える。教わるだけではなく、自分で考えることを忘れないことも大事なのでしょう。

 

だから、小さなことをやろう


小柳さんに、地域おこし協力隊として上三光集落にやってくる人に、どんなことを期待するのか伺うと、「企画とデザイン」と答えてくださいました。それでも、ただ企画やデザインのスキルを持っている人に来てほしいという訳ではないそうです。

 

「僕も好きなことやっているけど、僕よりもっと好きなことを見たり聞いたりできるやつがいたら面白くなるなっていうのが本音。スキルを持っているのは大事。ある程度デザイン力も必要。でも、金使えば簡単にできることでもある。スキルがあるだけはダメで、何よりも『好きでやっている』という気持ちが大事。その気持ちにデザインが加わって、やっと良いものができる。そうすると自分たちもかっこよく見えて、誇りを持てる。それが大事だよ。地域おこし協力隊には、まず『君の好きに作ってごらん』と伝えたい。好きにつくっているうちに気づくことがあるよ」0u8a5986

 

そして、今までのご自身の活動を振り返るかのように最後にこう語ってくださいました。

 

「大きな事業だと立派に見えるんだけど、ささやかなことは馬鹿にされやすい。ささやかなことを持続するとそれが水脈になっていくはずなのに。大きなことはすぐには続かない。だから、小さなことをやろう。小さなことに人が集まってきて、大きなことになるんだから」

 

今回、地域おこし協力隊に求められている『外からの視点』を持って、上三光集落を見つめ、様々な仕掛けをつくってこられた小柳さんから語られる言葉は、この集落に暮らす人々への敬意とこれから新たに加わる仲間への期待に溢れていました。
まずは、小さなことから。小さくても活き活きとした一歩を踏み出すことのできる仲間が加わることで、上三光集落に新たな『道』ができるのはないでしょうか。